ぽとぽとはらはら 18
伊神 権太
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(尾張の地にも梅の花が咲き始めた=江南市内で 撮影・たかのぶ)
令和二年。冬の朝。梅の花が咲き始めたその日、満はマフラーを首に江南駅界隈を歩いてみた。オレンジに黒、白など。色とりどりのバッグをリュックの如く背負った多くの高校生が交差点で赤信号を待ち、赤に変わると一斉に動き出す。これだけを見ると、結構の数が交差点を埋め尽くし見ようによっては雪崩をうって目的地に向かう若者集団に見えなくもない。大東京・渋谷の交差点とは比べようもないが、地方の町、ここ江南市とて本質的には若者たちの営みのひとつに変わりはない。
(元気に登校する高校生たち=江南市内で。2月5日朝 撮影・たかのぶ)
なかに一人、鮮やかなオレンジのカーディガンに身を包んだ六十歳は過ぎたであろう男性が前方を見て黙々と交差点を通り抜けていった。どうやら、朝の散歩というか。いや、自発意思による体力づくりにも映る。そうかと思えば、ボランティアなのか。何やら竹でできた棒鋏のようなものを手にゴミをひとつひとつ拾って、そのつどゴミ袋に入れて歩く帽子をかぶった初老の男性もいる。
こんなわけで、ここ江南といえども表面的には、それなりに地方のちいさな都市のチョットあわただしい朝に見られる光景と何ら変わりはない。ことしは暖冬で「雪が降らない、降らない」と新聞テレビが騒ぎ立てている間に、こんどは中国の武漢を震源とした新型コロナウイルス感染による新型肺炎が世界じゅうに広がり、二月三日現在で日本でも二十人の感染が判明したという。感染者は中国国内だけで既に一万人を越え、一万七千二百五人に。死者も三百六十一人となり、二〇〇二~〇三年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の数(感染者八千九十六人、死者三百四十九人)をも上回ったという。
先が見えない不気味な感染者増になんたることだ、とは思うものの、マスクをかけるか手洗いを励行する以外には防ぎようがない。どうしようもない。そのマスクも、このところは各地で品薄状態に陥っているという。このまま容赦なき感染が突き進むとしたなら、こことてウイルスのまん延に町の機能が沈没しかねない。だとしたら、どうして良いものか、は満にはわからない。誰もが突然、襲いきたウイルスの急襲にはただ右往左往しているばかりなのである。
(連日、新型コロナウイルスのニュースで埋め尽くされる新聞各紙)
(中国の感染地域はパニック状態に陥っている CBC・ニュースキャスター画面から)
それはそうと、満は先日たまたま開いた朝刊の地方版(尾張版)で『市民による「議会」江南で来月1日 女性の視点 市政に』『保育士の阿部さん登壇へ 経験生かし3項目質問』といった見出しを目にした。記事は前文で『女性の視点を市政に生かそうと、江南市は来月一日、女性市民による「女性議会」を開催する。市男女共同参画都市宣言から十年に合わせた企画。女性たちが議場に立ち、女性や母親ならではの問題の解決について市幹部に意見をぶつける。』とうたいあげていたが、良い試みだなと思う。
記事はさらに本文で『女性特有の問題である「乳がん・子宮がん健診について」や、母親の関心が高い「子育て世代のSNSとの向き合い方について」などの質問が予定されている』としたうえで『日本は女性国会議員(衆院)の比率が二〇一八年時点で、世界百九十三カ国中、百六十五位。G20で最低となっている。江南市議会でも二十二人中女性議員は二人と少なく、県内ではみよし市や飛島村などでゼロ』との記述もあり、心に引っかかったのも事実だ。あの婦人参政権に命をかけた一宮出身の市川房枝さんが生きておいでなら、この現状をどう憂えるのか。お聞きしたい気がする。
この女性議会。議会翌日の今月2日付新聞には『活発「女性議会」市政に生かせ』の見出し入りで『地区の自主防災組織に女性メンバーはどれだけいるのか』『通学路のハザードマップを製作してはどうか』などの質問が出た、と報じており、満はそれなりの効果はあったのでは、と思う。
(「女性議会」市政に生かせ、と報じた2月2日付中日新聞尾張版の紙面)
デ、それはそれとして、だ。先日行きつけの理容店主から満は散髪中に突然「ところでお客さんは、どう思や~す。これ、ある議員の議会報告だでよ。みたってちょうせんか」と手渡されたA5判のチラシの内容が若干気になる。
チラシには古知野地区と布袋地区の過去十七年間の税負担と事業費が並記=古知野の税負担110・5億、事業費10・6億に対して布袋は税負担31・8億、事業費124・3億円=されており、ひと口で言えば、両地区が共に繁栄するよう投資規模を同額にすべきではないか―と要望する内容で、これには理容店主ならずとも不公平感は一目瞭然である。満はすなおに「事情はどうあれ、やはり行政には市民から得た税負担に見合う都市開発を心がけてほしいですよね」と自分なりの意見を述べたのである。
そうとは言ってもだ。負担額どおりに都市の開発が進むかどうかとなると、これまた難しい。図書館など市の施設は何もその土地の人だけが使うのではなく、全市民が使うためのものだからだ。満はこんなことを考えるうち、自身の頭が小さなちいさな袋小路の中に分け入ってしまいそうな、そんな錯覚にもとらわれるのであった。
【19へ続く(不定期で連載していきます)】
著者・伊神権太さん経歴
元新聞記者。現在は日本ペンクラブ、日本文藝家協会会員。
脱原発社会をめざす文学者の会会員など。ウエブ文学同人誌「熱砂」主宰。
主な著作は「泣かんとこ 風記者ごん!」「一宮銀ながし」「懺悔の滴」
「マンサニージョの恋」「町の扉 一匹記者現場を生きる」
「ピース・イズ・ラブ 君がいるから」など。
「しえなんカード(名刺)を置きたい!」「うちも取材してほしい!」という
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