連載小説『ぽとぽとはらはら』28

2020年5月16日

ぽとぽとはらはら 28
伊神 権太

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28


(カモメも人も。海の水にだって意志はあるはずだ=石川県能登半島・七尾湾で 撮影・たかのぶ)

 

 テントウムシだって。蝶。アリさんだって、だ。この世に生きるもの全てが、ただ漠然と生きているのではない。皆、それぞれの強い意志で、ただひたすらに命を全うしているのである。この星、地球には人間だけが生きているわけではない。
 満はここで思う。だったら、動物や魚とは違う花々や草木など。さらには俺たちの顔面や体にふきつけてくる〈かぜ〉は。海を流れる〈海水〉や〈川の流れ〉、天から降ってくる〈雨〉や〈雪〉〈雹〉、大気を包み込んでしまう〈霧〉はどうなのか、と。これらの生きものに人々の心を流れる感情のような意志はあるのか、ないのかと。やはり、全てのモノの中に意志はある。「見えないだけで、きっとある」と満は勝手に信じている。

 ところで新型コロナウイルスの地球への出現(それは被膜の如く、この星を覆っているのかどうかは分からない)により、世界中の人々の生活がズタズタに切り裂かれた。これまでの普通の日常生活が〝非日常〟と化してしまった。街や商店街を歩く人々は、マスク姿が当たり前で、いつもなら電車やバス、自家用車で出勤して会社で働くサラリーマンや学校で学ぶ小中大学生らが自宅と職場、学び舎をつなぐテレワークやら、オンラインによる会議や授業に甘んじている。新聞、テレビ、ラジオはむろんネットを開いても、どこもかしこも新型コロナウイルスへの感染者数(死者を含む)やコロナに関する記事や〈くらしの情報〉の満載で、こうした〝コンコロコロナ〟の狂騒は、なんだか、この世の中そのものが日に日に別世界にと飛ばされていくような気がする。中にはコロナ禍で痛手を被った人々に対する雇用調整助成金やら給付金の類をエサに、どさくさに紛れて漁夫の利を得る輩が続出するのでは、と。そんな気がしないでもない。
 そして。この見えないコロナ禍を壊滅させるとなると、もはや、この地球の恩恵のなかで生かされてきた人間たちがどんなに叫び、あがこうとも、どうしようもないのではないか。こうした気持ちは、満だけに限ったものでもなく、この世に存在する全ての人間にとって、共通の認識・脅威であることは明白だといえよう。

 


(市内スーパーには感染拡大防止のための呼びかけも 撮影・たかのぶ)

 


(一方で、朝の不燃物ゴミ収集場には当番の市民が立ち、いつもと何ら変わらない 撮影・たかのぶ)=いずれも愛知県江南市内で

 

 事実、世界の感染者と死者は相変わらずきょうも増え続けているのだ。
 ――米ジョンズ・ホプキンズ大学の日本時間14日午後3時の集計で、世界の新型コロナウイルス感染者は約434万8000人(日本は14日現在で1万6915人)となった。最多は米国で約139万人。次いでロシアが24万2000人、英国23万人に続き、スペイン、イタリアが各22万人余。死者は29万7200人(同726人)に達している。一方で日本政府は14日、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言を愛知、岐阜など39県について「新規感染者が減少傾向にある」として解除した。

 


(市内ホームセンターには、飛沫防止のフェイルシールまで登場した 撮影・たかのぶ)

 

 先の見えない自粛生活。いったい全体、いつになったら元の生活に戻るのか。
 ところで、そんなこととは別に。いま満が木曽川河畔に広がるこの町、江南市で菊美らと共に実現させようと願っている〝夢ひろば〟は、この先、このコロナ禍の洪水の中で、どうなってしまうのか。このまま今の世の中が続けば、とても夢の実現どころではない。満はつい先日から読み始めたカミュの文庫本「ペスト」を手にしたまま、どこか未知の世界にと引き込まれていく自身を感じていた。文庫本の帯には「熱病の蔓延する封鎖された街で人はどう振る舞うのか?」と書かれている。
「ペストは虚弱な体格の者は見のがし、特に強壮な体質の者を破壊する…」「彼らは生きているというよりもむしろ漂流しつつ、方向もない日々と、うるところのない思い出のまにまに、みずからの苦痛の大地に根をおろすことをうべなった暁にのみ生気を生じうるのであろうところの、さまよえる亡霊となり果てていたのであった」「この町に囚われているすべての人々が彼らの放心を感じる瞬間であり、そして解放を早めるためには何ごとかをなさねばならなかった」……
 ――先ほどから、まわりくどい翻訳文が、頭のなかでトグロを巻いている。なぜだろう。文面が目の前で大きくなったり小さくなったりしているのだった。そして。気がつけば、目の前には。あの菊美をはじめ梢に美智、シャキットさん、相場師、コンドル、ほかに和尚らクラスメートも加わって全員にこやかな表情で互いに手と手をつなぎ、今にもフォークダンスでも踊る寸前にも見える。

 こうした情景を目の前に満は、これは平和な社会を願う人間の鎖のようだな、と思った。そこには往年の青春歌謡歌手舟木一夫さん本人と彼の人生を描いたなた・としこさん、かつて東京から〝おっかけ〟で名古屋までリサイタルのたびごとに駆けつけていた京さんたちもいる。そればかりじゃない。ステージには、大正琴を世界に広めてきた、あの弦洲会の会主親子と門下生の多くも笑顔で座り、大正琴の演奏が今まさに始まろうとしていた。

 

【29へ続く(不定期で連載していきます)】

 

著者・伊神権太さん経歴
元新聞記者。現在は日本ペンクラブ、日本文藝家協会会員。
脱原発社会をめざす文学者の会会員など。ウエブ文学同人誌「熱砂」主宰。
主な著作は「泣かんとこ 風記者ごん!」「一宮銀ながし」「懺悔の滴」
「マンサニージョの恋」「町の扉 一匹記者現場を生きる」
ピース・イズ・ラブ 君がいるから」など。

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